東日本大震災級の地震や、九州北部豪雨で引き起こされた水害などはいつ、どこで起きてもおかしくないもの。だから、本来防災というのはとても大切なことであるはず。それなのに、どうしても「地味」「堅苦しい」「今はいいや」と、後回しにされがちなのが実情です。
そんな防災の取り組みを楽しく、わかりやすいものにすることで、人々の防災意識を育てていきたい。そんな目的のもと、等高線に沿って切り抜かれたパーツをパズル感覚で積み重ねて作る「段ボールジオラマ」を使い、学校や地方自治体などで「防災授業」を展開しているのが、一般社団法人 防災ジオラマ推進ネットワークです。自分たちの暮らす街のことでも、実際の地形がどうなっているのかは案外よく知らないもの。そこで、ジオラマを作ることでその高低差などを体感しつつ、まち歩きを通じて危険な場所をチェックし、いざという時によりよい行動をとれるようにしようというのがこの試みです。
防災ジオラマネットワーク代表理事の上島洋さん。忙しい本業の傍ら、全国を飛び回って「防災授業」を展開している。

石巻生まれの段ボールジオラマが、防災・減災意識を育てる。

「自分たちの住む街の地形を理解することには、防災の面で大きな意味があります。どっちが高いか、どっちが低いか。こっちの方が高いとわかれば、津波が来た時にどちらに逃げればいいかがわかりますよね。また、ジオラマを作るだけでなく、実際に地域を回って危険箇所を点検し、その生の情報を反映させることで、“ここには階段しかないから車椅子で避難する時には通れない”などといったこともわかるようになる。地形図に主体的に入れるので、ここが危険、ということを体感できるようになるんです」


そう話すのは、この団体で代表理事を務める上島洋さん。東日本大震災の後に石巻を中心に支援活動をしていた仲間たちとともに、約2年前に防災ジオラマの活動をスタートさせました。
「もともと東京で仕事関係のつながりがあったメンバーで、震災から1年くらいたった頃から石巻に行き始めました。そこで、石巻市を新しい町へと生まれ変わらせるべくさまざまな活動を展開している団体、ISHINOMAKI2.0のメンバーともご縁ができ、『復興バー、銀座』という取り組みにも参加するようになりました。被災地の復興に役立てることを地道に、一緒に楽しく、何よりも継続してやって行こうというのが、私たちの当初からのスタンスでした。そうしてさまざまな活動をする中で、“復興のための活動と並行して、災害の教訓を防災のための取り組みに生かしたい”と考え、立体模型を作る防災授業を思いついたんです」


そんな上島さんたちが石巻で出会ったのが、梱包材加工会社、今野梱包の今野英樹社長でした。今野社長といえば、石巻を元気にしたい! と2015年に強化段ボールで実物大のスーパーカー「ダンボルギーニ」を作って有名になった人。その今野さんに相談したところ、模型の素材としての段ボールの提供と加工を請け負ってくれることになりました。上島さんとともにこのプロジェクトに当初から関わる理事の井村晋作さんは言います。


「紙を等高線に沿って切り、立体模型を作ること自体は昔からある方法。でも、私たちが工夫したのは“誰にでも作れる”という部分です。段ボールは子どもたちもなじみがある素材ですし、何より取り扱いやすい。そこで、今野さんに相談し、段ボールにあらかじめ等高線に沿って切れ目を入れたパーツを作っておき、現場ではそこから取り外して積み重ねればいいようにしました。東北地方では今野さんの会社にしかないというような設備を使って、案件ごとに地図データをで段ボールにプリントし、巨大なカッティングマシーンでカットしてもらっています。段ボール加工のプロだからこそできることですから、本当にありがたいですね」

左:強化段ボールの1段は5mに相当。高低差が激しい山間部などでは20mなどに設定することもある。段差や崖などが立体で表されるので、増水時などにどこに避難すればいいかもわかりやすい。右:大学で建築を学んだ井村晋作さん(左)はゼンリンから提供される地図のどこをジオラマにするかなどの設計面を担当。

楽しんで作ることが地域の理解につながる、世代間の対話が生まれる。

そうして作られるのが、1m×1mのものを4つ組み合わせ、完成形で2m×2mになる段ボールジオラマキット。段ボール1枚分で5mの高低差を表現するのが基本形です。今でこそ発注から3週間程度で納品までできるようになったキットですが、最初は手探りだったそう。国土地理院の地図から等高線を起こしていた時には、加工前のデータを作るのも大変だった、と井村さんは振り返ります。現在は国内最大手の地図情報会社であるゼンリンのDIG地図(災害図上訓練用地図)のデータを使えるようになったため、格段に作りやすくなったとか。このデータは、学校用のジオラマに限って無償で提供されているとのことです。


これまでに彼らがキットを制作し、防災授業を行った先は約20カ所。活動のスタート地点である石巻や女川などはもちろん、豪雨の後に炊き出しで訪れた熊本県益城町の学校、さらには復興庁のイベントや国連の研修などでもワークショップを行ってきました。活動の中で得られる手応えについて、上島さんに尋ねると「自分たちの予想を超えた反応があるのがうれしい」とのこと。
「子どもたちは防災うんぬんの前に、地形を組み立てて街を作ること自体が楽しかったと言ってくれることが多いですね。この“楽しい”という気持ちとセットで地形のことを記憶してもらうことが大事だと私たちは考えています。小学校6年生くらいになると“おじいちゃんやおばあちゃんにどうやって避難すればいいのかを教えないといけない”とか、“ここは階段だからうちのおじいちゃんは避難できないから他の道を考えないと”とか、“避難所って思っていたよりも遠い”とか、みんながいろんなことに気づいて意見を出してくれる。また、学童保育で防災教室をやった時、子ども同士が“最近ここの公園で遊んでるんだよね”と話しているのを聞いた親御さんたちが、“え、こんな遠くまで行ってるの?”とびっくりしたことがあったんです。ジオラマが家族のコミュニケーションツールとしても使えるということは、全く想像していなかったことです。地図が全く読めなかった子が、自分で地図を作ってみることで読み方を理解するようになったという事例もありました。それらすべてが“やっていて良かった”と思う瞬間ですね」

左:防災授業の様子。防災意識が広がることを目指し、丁寧な活動を続けている。右:横浜市立梅林小学校の児童たちが作ったジオラマ。電車なども自分たちで作り、地域の楽しい地図が出来上がった。

活かし方次第でいつまでも役立つ、完全オーダーメードの立体地図。

最近では広島や高知などからの依頼も。全国に範囲が広がっているのはうれしいとしながらも、上島さんは「まだまだ認知が圧倒的に少ない」とも話します。
「地方自治体などで防災関連や避難所運営などの活動をしている方やマンションの管理会社、コミュニティー運営に関わる企業などからイベントに参加しませんか、と声をかけていただく機会は増えていますが、まだまだ認知度が低いのが実情です。本当は、町内に1つあるくらいにしたいんです。一般の方に周知するために、プロジェクションマッピングで土砂災害の警戒区域や津波の浸水想定などをアニメーションにして見せたり、アナログとITを組み合わせた方法なども模索しています」

「ジオラマを組み立てるだけでなく、街中を実際に歩いて気になる部分を自分で確認することが大切」と話す上島さん。

上島さんは最後に、「せっかく作ってもらったジオラマも、倉庫にしまってしまったら意味がない。日常的に人々の目に止まるような仕組みを、それぞれ作っていってもらえれば」とも話してくれました。
「強化段ボールはちゃんと管理すれば長持ちしますから、コミュニケーションインフラとしてどんどん使って欲しい。商工会議所や商店会などが中心となって地域のお店や施設にフラッグを立ててみたり、鉄道模型のジオラマのようにどんどん要素を足していったり。新しい情報をアップデートすることも大事です。学校で作ったものを地域に開放してもらい、それを生かす取り組みを地域のリーダーたちに積極的に行ってもらえたらうれしいですね」

防災ジオラマキット。このような台紙からパーツを外して作るだけなので、子どもたちにも簡単に作ることができる。

撮影 榊 水麗/取材・文 山下紫陽/企画制作・リベルタ


一般社団法人防災ジオラマ推進ネットワーク

段ボールで作るジオラマを使った楽しく実践的な防災授業を通じて、まちを知ることの面白さ・大切さを伝えています。自分の手でジオラマを組み立てることで、まず何よりも自分のまちとその地形に興味を持ってほしい。日常的に立体のまちに触れることで、地域に潜む危険をもっと身近なものとして感じてほしい。それが私たちの思いです。
ウェブサイト:防災ジオラマ推進ネットワーク


NPOの知らせる力プロジェクトは、NPO法人等が取り組む「社会の課題」をより多くの人たちに「届ける」ための支援をおこないます。現在、Yahoo!ネット募金を通じてご支援を受け付けています。
市民活動に取り組む方々の声が、より社会に届きやすくなるために。

  • ツイート
  • シェア