日本で暮らす私たちは、戦後70年にわたり、小・中学校の9年間にわたる義務教育を当たり前のこととして享受してきました。しかし、世界には最低限の教育機会すら与えられない子どもたちがいます。どんな場所に生まれても、子ども達が自分の価値を最大限に発揮できる社会であってほしいーーそんな思いから、途上国に平等な教育機会を創り出すための活動を続けてきたのが、NPO法人Class for Everyone(以下C4E)。その代表理事の高濱宏至さんです。


C4Eの現在の活動は大きく分けて3つ。1つめの「TASUKi Project」は、使われなくなったパソコンなどのデバイス機器を個人や法人から収集してリユースし、アジア・アフリカを中心とする途上国の学校やNGOなどに寄贈し、現地に住む子ども達のICT教育を促進するもの。2つめの「HIKARi Project」は、非電化地域でもパソコンなどを活用できるようにソーラーパネルをリユースし、大規模送電網に頼らない自然エネルギーを活用したオフグリッド型の発電システムを作るもの。そして3つめは「MOBi Project」といって、移動型図書館によって山奥など遠隔地に住む子ども達にも平等なICT教育機会を届ける仕組みを作るというものです。

Class for Everyone代表理事の高濱宏至さん。現在は神奈川県相模原市の芸術の町、藤野地区を拠点に、世界各国で活動を展開している。

途上国との機会格差を埋める、インターネットを使った授業。

高濱さんの活動の原点は、学生時代に訪れたフィリピン。
「フィリピンで植林を行うサークルに所属していて、3週間現地の家庭にホームステイしたことがあるんです。その時に、日本と途上国でのインターネット環境に差を感じ、そこを何とかすれば、子どもたちの教育の可能性が広がるのではないかと考えていました。その後、2010年頃にハーバード大学やマサチューセッツ工科大学などの世界最高峰の大学の講座を日本で見られる機会を得ました。それを見て、今はインターネットによっていろんな学び方が可能な時代なのだから、途上国のICT教育環境を整えれば平等な教育機会を創れるのではないかとひらめきました。当時は大学を卒業して、楽天(株)にシステムエンジニアとして勤務していたのですが、それならば自分の持っているスキルや知識を世界に生かしていくことをしたいと思い、退社して、今の活動をスタートさせたんです」


9歳の頃に報道写真家のケヴィン・カーターが内戦の続くスーダンでやせ細った少女と彼女に忍び寄るハゲワシを撮影した「ハゲワシと少女」(1993年)という写真を見て衝撃を受けたことから、国際社会に興味を持つようになったという高濱さん。「私たちは日本に生まれたことだけで恵まれているけれども、人間としてもともと持っている能力には違いがない。ならば、恵まれた環境に生まれた責任というものもあるはずだ」と考えたことが、今の活動にもつながっていると言います。そんな高濱さんは、会社を辞めるとすぐに使われなくなったパソコンをフィリピンの地方やスラム街に持ち込む活動をたった一人でスタート。まだ26歳の時のことです。


「手元には何もない状態でした。パソコンを集めるにも、企業のお問い合わせページから問い合わせても返事なんて1通も来ない。周囲の友人に声をかけ、なんとか10台をかき集めました。ただ、送り方もわからないので、郵便で運んでみたり、飛行機で持ち込んだりと、いろんなやり方で送ってみた。現地で受け取るのにも苦労しました。フィリピンの中央郵便局には届いているのに、そこから配送されていない、早く配送してもらうために賄賂を求められるとか(笑)。いろんな体験をしながら方法を模索しました。少しずつ企業や大使館の協力が得られるようになっていき、今では外資系も含めて40以上の企業に協力をいただいています。また、プロジェクトごとにさまざまな団体や個人との協力関係を築くことで活動が継続できています」

日本から送られたパソコンで新しい学びの機会を得た子どもたち。高濱さんは「大切なのはインプット以上にアウトプット。そのための教育も必要」と話す。右はC4Eがパソコンを寄贈したルワンダのウムチョムイーザ学園。「初等算数教育への ICT 活用による教育の質向上を目的とした案件化調査」をルワンダで行う株式会社さくら社からの依頼を受けての寄贈だった。

パソコンを使うための電力が足りないなら、作るしかない。

フィリピンでは小学校にパソコンを納入するだけでなく、情報検索の技術を伝える子ども向けの教室を開くなど、思いついたことに次々と挑戦していった高濱さん。2013年度にはYahoo!基金の助成でフィリピンのタナワン市にある10の小学校に100台のパソコンを納入する事業も実現させました。教育への関心は高いものの、親の貧困などで学校に通えなくなる子供が多数いるというこの地域での反響は大きく、喜んでもらえているという実感を得たと彼は言います。そんな活動を続ける中で突き当たった問題が、電気のこと。パソコンがあっても、電気がなければ使いものになりません。次に取り組んだのが、ソーラーパネルをリユースした独立電源の納入でした。

「必要から生まれた新事業です。日本では多くの人が震災の時の計画停電で電気がない時間を初体験したと思うのですが、フィリピンでは停電は当たり前。巨大台風が来れば3週間近く停電することもあります。今僕が住んでいる神奈川県相模原市に自立分散型の自然エネルギーに地域で取り組む『藤野電力』という活動があり、そこで作った小規模発電システムを海外に持っていこうと考えました。基本的にはソーラーパネルメーカーのB級品を再利用したもので、僕は組み立て方法などのマニュアルを英語で作り、パッと見ただけで電気のつなぎ方がわかるようにしています」

(左)使われなくなったソーラーパネルを活用して地方におけるオフグリッドな電力供給システム構築を目指す藤野電力の協力で、タンザニアの非電化地域に電源供給システムを構築。(右)移動図書館車にもソーラーパネルを設置。

活動は、フィリピンから世界中の各国へ。

今ではフィリピンだけでなく、ミャンマーやラオス、カンボジアといった東南アジア諸国やアフリカのタンザニアやルワンダ、ガーナ、中米のベリーズや南太平洋のパプアニューギニアなどでも活動を展開。当初はフィリピンでの活動だけを考えていたという高濱さんのもとに「うちの国でもやってくれないか」という声が寄せられるようになったといいます。「フィリピン以外の国のことは知らないけれど、来て欲しいという人がいるのならやってみようかな」と思い法人を立ち上げてわずか半年後にはアフリカのガーナとの連携を始めました。恐るべき実行力! さらに、遠隔地との格差を縮めるべく始めたのが、移動図書館車(モバイルライブラリー)による活動です。


「Yahoo!基金から2回めの助成金をいただいた後にアフリカの山間部に行くことになって、そこでいろいろなものが足りていないことがわかったんです。パソコンだけでなく、本も、電気も。それで、かつて日本で使われていた移動図書館車に本やパソコンとともにソーラーパネルを積んで行くことにしました。今後も課題ベースで活動の内容は変化していくと思います」

日本の方が進んでいる、と考えることのおごり。

これまで数々のパソコンをフィリピンやアフリカの子どもたちに届けてきた高濱さんですが、今後はそのニーズは減っていくとも話します。それ以上に大切になってくるのがソフト面の拡充。ただ、その課題を抱えるのは日本も同じです。

「日本では東南アジアやアフリカの国は遅れていると思う人が多いですが、実はパソコンはなくともスマートフォンはたくさんある。価格も下がっているので、一人一台が当たり前になってきているんです。スマートフォンを通じての送金システムは日本よりもはるかに進んでいるんですよ! 小規模発電システムがあればスマートフォンの充電くらいいくらでもできますから、これからはハードよりもソフトの充実に活動内容もシフトしていかざるを得ないでしょうね。これは日本でも同じです。インターネットやスマートフォンがすごいのは、世界中の情報をインプットできることにもありますが、もっと大事なのは誰でも世界に向けてアウトプットできることにあると思う。フィリピン人の多くは英語ができますから、インターネットが常時つながる状況さえ整えば、世界中にいくらでも英語でアウトプットができるんです。情報を得た上で自分に何ができるのかをきちんと考える機会を子どもたちに作っていくことが、これからの僕たちの活動においても重要だと思っています」

以前は各地を走り回っていた移動図書館車。昭和の匂いがするこの車にまだまだ可能性が詰まっている。

活動の中で浮き彫りになってくる、世界共通の課題。

今後は引き続き海外の非電化区域での独立電源の普及活動やICT教育の機会創出に従事しながら、そこで見えてきたさまざまな課題を日本に還元することを考えていきたいと話す高濱さん。日本での課題解決に目が向くようになったのには、高濱さんご夫妻の間に子どもが生まれたことも大きかったそう。それと同時に「子どもたちが生きていく世界が今よりもいいものになってほしい」という気持ちもより大きくなったそうです。

「僕がフィリピンにホームステイした時に一番心に残ったのが、家族への愛の強さでした。子どもたちもそうで、向こうの学校で一番大切なものは? と尋ねると、必ず“家族!”という答えが返ってくる。僕も2015年に子どもが生まれて、その気持ちがよくわかるようになりました。幸せの感覚が変わった。だから、海外の子どもたちの活動ももちろんやりたいけれど、日本にももっといたいという気持ちも大きくなってきたんです。フィリピンやタンザニアで僕が出会った人たちが抱える問題は、今の日本が抱える問題とも共通している。都市部と地方の格差は拡大しているし、大きな災害があれば電気も止まります。今後は僕が各地で得た知見を、いろんな人たちと連携しながら、日本の地方などにも反映させた活動もできればいいなと思っているんです。国際協力の形も変わってきている。先進国が途上国に貢献するという旧来の形ではなく、さまざまな課題について国境や人種の違いを越えて取り組み、地球全体についてみんなで考えていくことこそが、これからの国際協力に求められる形だと考えています。」

ソーラーパネルを手にした高濱さん。この移動図書館車は藤野に住む著名な絵本作家、西村繁男さんや地元の子ども達と一緒にペインティングしたのだそう。

撮影 奥田晃司/取材・文 山下紫陽/企画制作 リベルタ


NPO法人Class for Everyone

世界中の誰もが自分の価値を発揮できる社会を作るため、日本で使われていないデバイスやソーラーパネルをリユースし、非電化地域を中心にアジアやアフリカの子ども達に質の高いICT教育機会を届けています。
ウェブサイト:Class for Everyone


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