子どもたちは生まれ育つ環境を選べません。地域や親族との関係が希薄なものになっている今、親の経済状況や社会とのつながりなどが、子どもたちが受けることのできる教育や愛情を大きく左右し、ひいてはその子どもたちの将来的な財力や人間関係、健康状態を含めたさまざまな可能性にも影響を及ぼしています。すべての子どもたちが等しく、社会から孤立せず安心・安全に暮らしていけるようにしたい。ならば、子どもの社会保障や権利保障を行政や家庭だけに任せるのではなく、昔の地域に代わって子どもたちに関わる大人を増やしていくべきではないかーーそんな思いのもと、学習支援や相談事業などを中心とした活動を展開しているのが、認定NPO法人3keysです。


代表理事の森山誉恵さんが3keysを立ち上げたのは、まだ大学生だった2009年のこと。右も左もわからないまま、児童養護施設で子どもたちに勉強を教え始めた彼女は、共感する人たちを巻き込みながら、活動の範囲を広げながら内容も濃いものにしてきました。今では学習支援事業「prêle(プレール)」と、子どもの権利保障推進事業「vine(ヴァイン)」の2本の柱のもと、丁寧な活動を展開しています。

3keys代表理事の森山誉恵さん。父親の仕事の関係で子ども時代を韓国で過ごしたことや、日本に戻ってきて感じた違和感、高校時代に留学したアメリカでの経験などが、彼女の今に大きな影響を与えているという。

自らの恵まれた環境を再認識した、子どもたちとの出会い。

「日本の教育環境って基本的には“家庭でなんとかするもの”といっても過言ではない予算配分です。福祉や教育に使われるお金は諸外国に比べても少なく、GDP比の公教育支出はOECD諸国の中でも最低レベル。そのうえ社会のスピードは非常に早く、昔のように地域の支えもないので、格差は広がるばかりです。親にどれだけのお金があるか、教育に対する意識があるかで、子どもたちの将来が決まってしまう。そのギャップを少しでも埋めていきたいというのが私たちの活動の根幹です」そう話す森山さん。彼女がこの問題に取り組み始めたのは大学3年生の時でした。


「それまでは企業でインターンをしたり、OVALというビジネスコンテストを作るサークルで活動したりしていたのですが、なんとなく違和感を感じていました。そんな時に近所の児童養護施設で学習ボランティアを募集しているのを見つけて。それで、勉強なら私にも教えられると思って行ってみたのですが、その環境は想像とは大きく違っていました。よくテレビとかでは芸能人が施設を訪れると子どもたちがワーッと寄ってきて……みたいなシーンがありますよね? あのようなイメージを持っていたのですが、現実の子どもたちは私の想像以上に過酷な環境を生き抜いてきていて、大人たちのことを素直には信用していないという感じで、何か達観しているような感じすら漂っていました。これまで虐待を受けていたりしてきたら、当然の反応だと思いますが、施設に行くまでそこまでの想像力は恥ずかしながらありませんでした」


「私自身は大学こそ裕福な家の子どもが多い私立大学ですが、高校までは公立でしたし、親への反発心も強かったため干渉されないためにもバイトに明け暮れつつ、渋谷でギャルの真似事なんかもしていて、いろんなことを見てきたつもりでいた。でも、家庭で生きるか死ぬかの状況に追い込まれ、行政によって引き離されて施設に来た子どもたちを見て、自分が見ていたものや知っているつもりになっていたことは、実際に起きていることのほんの一部だったと気づきました」


それまで全く気付いていなかったのですが、自分が経済的に、また精神的にどれだけ恵まれた環境にいたか、親に支えられていたかと実感したという森山さんは、「せめて勉強だけでも粘り強く教えていこう」と決意。家庭内暴力にさらされ、テストで一つでも間違えると親にたたかれるので結局不登校になってしまったような子に出会ったときは「頑張れなくてもいい日もある」ということを学習指導の中で伝えていこう、とも考え、粘り強く接していったと言います。

大学3年の途中までは教育や福祉に関係する企業への就職を漠然と考えていたという森山さん。しかし自分が立ち上げた3keysの活動に邁進するうちに、これこそが本業だと考えるようになったのだそう。

就職活動も途中で辞めて、学習支援活動に専念。

森山さんは地域サークルの活動の一環として行われていた学習指導に携わって1年がたった大学3年生の頃、もう少し別の角度からこの活動を展開したいと考えるようになったそう。


「地域の活動なので、常に人手、特に若い人が足りない状態。また誰かが辞めるたびに子どもたちが自分を責めていたのも気になりました。もっと指導法や関わり方を研修したり、教える側と教わる側のマッチングをしたりする必要も感じた。家庭教師や塾のアルバイトもやっていたので、営利団体だと当たり前にある指導者を支える体制も、ボランティア活動だと整っていないことに気づいたんです。ただ、そのサークルならではの伝統もあるし、いろいろ提案してもなかなか即行動というわけにはいかない。そこで、もう少し自分が納得いく形で子どもたちに学習支援を届けたいと思い、自分で活動を始めることにしました」


最初は「当時流行っていたmixiのコミュニティの“教師になりたい人”とか“福祉に携わりたい人”とかにアプローチして、一緒にやりたい人を募りました。手を挙げてくれた人には一人一人に会いに行って面接して、6人くらいからスタートしたのです」という森山さん。最初はボランティアを施設に送り込んだらすぐに辞めてしまうなどのトラブルにも直面しつつ、都内60の児童養護施設間の情報共有などもあって、次第にボランティアの派遣を希望する施設も増えていったそうです。大学3年生の後半には就職活動も辞めて、3keysでの活動に専念。大学では児童福祉についての学部や授業はほとんどなかったため、施設関係者から紹介された勉強会に出たり、本を読んだりして勉強したそうで、なかでも社会起業家について書かれた渡邊奈々さんの本からは希望をもらったと話してくれました。

中高生の学習支援は一対一が基本。教える側と教わる側のマッチングも慎重に検討している。

子どもたちの背景をきちんと理解して、ニーズに合った支援を。

現在、学習支援事業「prêle(プレール)」では中高生向けの家庭教師型プログラムと、小学生向けの教室型プログラムを、児童養護施設や母子生活支援施設に入所中、もしくは退所後の子どもを対象に展開。ボランティアやスタッフの男女比は1:1くらいで、指導可能教科やレベル、距離感や相性などを見てマッチングをしているといいます。


「中高生の場合、施設側から依頼された学習支援が必要な子どもに勉強を教えるのですが、どの施設も深刻な職員不足の中で、それぞれの子どもたちがどういう学習習慣を持っていて、どこでつまずいたかなどを正確に把握している人は、施設にはほとんどいません。なので、最初の3カ月くらいはお互いを知ったり、学力やつまずきポイントを把握し、その子に合った教材を見つけることなどに費やします。本格的に指導に移れるのは、それがわかってからになります」


「虐待が発見され、児童養護施設などで暮らせる子どもたちは、教育予算や大人の数が足りないという問題はありますが、暴力のない環境や、衣食住が提供される環境は整います。なので、私たちは保護された後の、教育面や、自立に向けた準備をお手伝いしてきました。一方で、最近虐待の通報・発見数が年間1~2万件ペースで増えており、虐待を受けて発見されても、適切に保護されたり、支援が届かない子どもたちが急増しています。そういった場合、教育支援以前の安全な環境や生活の最低限すら整わなくなります。そこで始めたのが、ソーシャルワーク的な『vine(ヴァイン)』の活動です」


vineでは相談できる大人が周りにいない子どもたちのために相談窓口を設け、一緒に解決方法を考えるという活動を展開。オンラインによる悩み相談に加え、2016年4月より10代向け支援サービス検索・相談サイト「Mex(ミークス)」を東京都限定で立ち上げ、17年6月からはこの範囲を全国へと拡大しました。


「オンライン相談に加えて、直接私たちが会って話を聞くこともあります。相談者の8、9割は学校に行きたくない気持ちや、家にいたくない気持ちを吐き出せる場所や大人の存在がなく、話を聞いて欲しいというところからスタートします。その背景には虐待や貧困、そして学校の問題が隠れていることが多いです。後の1、2割はより切迫した状況下にあったりするので、その場合は保証人探しや逃げる先の準備、法的手続きの際の同行なども行います」


「一方のMex(ミークス)は虐待やいじめ、自殺や心の問題などを抱えて悩んでいる子どもたちがいち早く安心して頼れる人たちとつながれるよう、支援団体の検索や相談ができるポータルサイト。親に頼れない、親に問題があり、その改善も難しいという子どもたちに対する支援が圧倒的に足りていないので、それを補いたいと思っています」

4年前に大学生ボランティアとして3keysの活動に加わった渡邉さん(右)と。「地元の学習塾でのアルバイトをきっかけに、教育や福祉に興味を持ち、ボランティアセンターでチェックした3keysでインターンをするようになったんです」(渡邉さん)。いまは職員として「Mex(ミークス)」を中心に活動中。

日本にも寄付やボランティアの文化を根付かせたい。

2017年8月に厚生労働省が発表した速報値によれば、’16年度の児童虐待相談対応件数は12万2578件で過去最多。また、同年度の国民生活基礎調査によれば、経済的に厳しい家庭で育つ18歳未満の子どもの割合を示す「子どもの貧困率」( ‘15年時点)は13.9%で、なかでもひとり親世帯の貧困率は50.8%というデータが出ています。しかも、子どもたちを支える教師や福祉関係の人材は圧倒的に不足。そんな状況下で、3keysで取り組まなければいけないことはまだまだたくさんある、と森山さんは言います。

子どもの貧困や社会的孤立、そしてそれを取り巻く社会の現状について現場から見てきた視点から社会に発信していくことも3keysの活動の一つ。多彩な講師陣を招いてのセミナーも多数開催している。

「先ほどもお話しした通り、日本は公的な支援が少ないうえ、企業のCSRなども遅れている印象。外資系だと自身の企業の利益を超えて、社会の利益のためにCSR活動やNPO支援を行っていますが、日本企業だとまだ自身の企業の利益を超えてまでの支援は、あまり行われていません。考え方が根本的に異なっているように感じます。その結果、企業のCSRでも行政の隙間を縫うところまでは残念ながらできていない。団体を立ち上げた8年前に比べれば確実にそういう状況は良くなっていますから、格差が広がりきってしまう前に発信にも力を入れていきたいと思います。」


「私の同世代には“こんなことになるなら最初から子どもを持つのはやめよう”なんて思う若者も増えている印象です。大人や社会を信じられない子どもたちを減らさないといけないですし、それがひいては大人にとっても良い社会につながると感じています。」

3keysに加わってからの4年間を振り返り、「だんだん『施設にいないことで支援から漏れている子どももいるのではないか』と考えるようになり、Mex(ミークス)の立ち上げに参画した。これからもより多くの悩める子どもたちに支援を拡大していきたいですね」と話す渡邉さん(左)。森山さんの頼れるメンバ―の一人だ。

撮影 榊 水麗/取材・文 山下紫陽/企画制作 リベルタ


認定NPO法人3keys

すべての子どもたちが安心安全に暮らせるように子どもたちのセーフティネット作りをしています。特に虐待や貧困などで頼れる人が少ない子どもたちの支援に力を入れています。
ウェブサイト:NPO法人3keys10代のための相談窓口まとめサイト Mex(ミークス)


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