震度7熊本地震で神社が全壊!まずは町の人々の復興を。益城町の神社仏閣の今

元旦の初詣、七五三など、日本人が人生の節目で足を運ぶ機会の多い神社や仏閣。 街並みがどんどん近代化されていく中、変わらぬ風景を守っている神社仏閣を訪れることで、心がホッとする、という人も多いはずです。
1000年以上の長い歴史を持ち、日本人の心に深く根ざした多くの伝統ある神社や仏閣が、2016年4月に発生した熊本地震で、全壊などの甚大な被害を受けました。

今回は熊本地震で全壊の被害を受けた、益城町の「守り神」として名高い木山神宮の禰宜(ねぎ)である矢田幸貴さんへのインタビューを通じて、震災被害に遭った神社や仏閣の現状と、被害を受けた益城町の人々の木山神宮復興への想いについて語ってもらいました。(ヤフーの社会貢献)

長い歴史を辿ってきた木山神宮が熊本地震で全壊

【木山神宮の禰宜(ねぎ)である矢田幸貴さん。一般の方の立ち入りを制限する青い規制線の中で。熊本地震だけではなく、東日本大震災などの被害を受けた全国の神社や仏閣の現状をもっと多くの人に知ってもらいたいと語ります】
--今回の熊本地震で全壊という被害を受け、現在も再建のめどが立っていない木山神宮ですが、どれほど前から存在している神社なのでしょうか?
矢田幸貴さん(以下、矢田)「この木山神宮がいつからあるか、という部分は実は不明なんです。史料上では1200年前からこの地にあるとされています。
木山神宮はそんな長い歴史の中、今回の熊本地震だけではなく、これまでも台風や西南戦争など、多くの被害に遭っていてそのたびに建て替えなどが行われているんです。」

--ということは、今回地震で倒壊した社殿も、以前に何らかの災害によって建て替えられたものなのですね。
矢田「そうですね。今回の震災後、無事だった社殿の中の彫刻類を取り外したのですが、そこに『宝暦2年』と記されてありました。今から276年前、江戸時代ですね。
どうやらその時にこの一帯で大火があったようなんです。今回倒壊した社殿は江戸時代からここに存在していたもの、ということですね。」

--そんなに昔からあるものが今回、全壊してしまった……矢田さんとしても生まれた時からある社殿が崩れている様子は見るに耐えなかったのではないでしょうか?
矢田「実は震災後3日間くらいの記憶があまりなくて……今考えると、やはり受け入れ難かったのでしょうね。
ただ、今までに何度もこういった災害を乗り越えてきて今の木山神宮があると考えると、今回の熊本地震での被害だって乗り越えられないわけがない、そう考えています。」

「心のふるさと」の全壊が益城の人々に与えた影響

【全壊してしまった社殿。運良く、本震の前に「神様」を安全な場所に運び出していました】
--しかし、それほどの歴史のある神社となると、やはり全壊という事実は矢田さんのみならず、益城町の人々にとって衝撃的だったのではないでしょうか?
矢田「そうですね、木山神宮は益城町の中心的な神社ですし、毎年の秋祭りのほか、初詣や七五三など、地元の人の成長を見守ってきた神社なので。
ただ震災直後は、皆さん自分のことで精一杯だったため、特に木山神宮のことを気に留めるということがなかったのだと思います。しばらく時間がたって木山神宮に参拝にきた多くの人が『まさかここまで!』と驚いていましたから。
全壊した社殿を衝撃を受けて、涙を流す人もいらっしゃいました。」

--そもそも多くの人が、神社や仏閣に対して「震災で全壊してしまう」というイメージを持っている人が少ないように感じます。
矢田「神社や仏閣というものは、街の風景がどんなに現代的になり変化していっても、いつも同じ場所に同じ大きな木があったり、同じ時期にお祭りがありますよね。その空間だけ、自分が子供の時と変わらない風景が広がっているんです。
きっと皆さんが、神社や仏閣に対して『災害で崩れてしまうものではない』というイメージを持っているのは、神社や仏閣のそんな普遍的な性質のためでしょうね。」

--そうですよね、妙な信頼感というか、安心感というかそんなものが神社や仏閣にはありますよね。
矢田「そうなんですよね、信仰などだけではなく、変わらないものに対する安心感を守っていくことが神社や仏閣の役割でもある、と私は考えています。
さきほど、木山神宮は益城町の人々の成長を見守ってきたと言いましたが、いつも変わらぬ風景を保つ神社や仏閣は、その場所で成長してきた人々の『心のふるさと』だと思うのです。
きっと全壊した社殿を見て涙を流された方も、崩れた社殿そのものにショックを受けたというよりも、『心のふるさと』が形を変えてしまったことへのショックを受けたのだと思います。
だから、というのもあるのですが、昨年の秋祭りは例年通り開催しました。地元の人々に『形は変わっても木山神宮は変わらない』ということをわかって欲しかったんです。」
【震災直後、矢田さんが木山神宮の前に立てかけた看板。いつも木山神宮は益城町の人々と共にある、ということを伝えたかったのだそう】

まずは町の人々の復興を。益城町の神社仏閣の今

【震災後も例年通り開催された秋祭り。「楽しかった!」だけではなく「今年も秋祭りに来られてうれしかった!」と語る住民の方々がたくさんいたとか】
--神社仏閣の風景がいつでも変わらずある、という言葉はきっとこれを聞いた誰もが共感することだと思います。崩れたままの木山神宮を見ると地元の人たちも心苦しいでしょうね。
矢田「そうですね、でも僕は神社の復興は地元の人々の生活が復興した後で良いと思っているんです。やはりそこに暮らす人々の生活が第一優先ですしね。
最初は瓦礫(がれき)などの撤去だけでもと考えたのですが、その作業に工事をする人たちの労力が取られてしまうので、その分地元の人々の生活の復興が遅れてしまうので。」

--それでは、木山神宮の瓦礫の撤去などはまだ……
矢田「はい、うまく進んでいないというのが現状です。
熊本には球磨工業高校という、宮大工を育成する学科のある高校があるのですが、無事だった彫刻類の取り外しはそこの生徒さんたちに手伝ってもらいました。瓦礫の撤去なども、僕や、身の回りの人たちで少しずつおこなっている状態です。
変な言い方ですが、宮大工を目指す若者たちにそんな機会を与えられたのも、身の回りの人たちとのつながりを実感できたのも、震災がきっかけだったのかなと思っています。
ただやはり、自分たちの力だけでは限界があるもの事実ですね。」

復興が遅れる神社や仏閣、その理由は?

【いまだに再建されていない本殿。木山神宮だけではなく全国の神社仏閣で、まだまだ多くの人の助けが必要であると矢田さんは語る(撮影=長野良市)】
--神社や仏閣は指定文化財ですと公的支援の対象となり、そうではないと補助金が出ないと聞きます。この現状について矢田さんはどう思われますか?
矢田「日本には政教分離の原則というものがあり、宗教的な側面のあるものに公的なお金を投入できないのです。国宝や文化財などに指定された神社や仏閣は文化的な側面が強いので再建にお金が出るのですけど……苦しいですが、制度的に仕方がない部分はありますね。
木山神宮と同じように、小さな神社や仏閣は復興できていないところが多いと聞きます。というのも、神社や仏閣は特殊建築が多く、億単位の費用がかかることも多いのですが、さきほど言った政教分離の原則があるためあまり多くの支援金が出ないので……。
特殊建築は宮大工の手を借りないといけない部分もあるため、通常の住宅などよりも再建に時間がかかってしまうんですよね。」

--被災地復興という大きなくくりはもちろん、次の段階として、神社や仏閣を守っていくためにも全国の人々の協力が必要なのですね。
矢田「そうですね、やはり実際に震災にあった地元の人々にはまだまだ余裕がなくて。そんな中、全国から励ましの言葉や寄付が届くのは本当にありがたいです。
ただ、さっきも言ったように、神社仏閣に対して『災害で崩れる』というイメージを持っている人が少なく、そもそも支援が必要であると認識している人が少ないのも現状としてあると考えています。
震災などが起こると、どうしても道路やお店、電柱といったハード面の復興に目がいきがちですよね。もちろんそれは人々が生活していく上で第一に大切なことです。
しかし、神社や仏閣は精神的な支えの役割を担ってきたという歴史もあり、人々の精神的な部分や心というソフト面での復興に深く関わっています。そこを成し遂げてこそ、本当の復興と言えるのではないかと考えています。」



「いつまでもクヨクヨはしていられない、ここからまた新しい木山神宮の歴史を刻んでいく」そう未来を見据えて明るい声で震災後の現状を語る矢田さん。
まずは益城町の人々の生活の復興を優先させたいという気持ちも、益城町の人々が木山神宮を「心のふるさと」にしてくれているという自負があるからなのでしょう。
しかし、再建にかかる莫大(ばくだい)な費用、政教分離の原則により指定文化財でない限り公的な補助金が入らないという事実が、神社仏閣の復興が遅々として進まないという現状の背景にあります。
皆がきっと持っている「心のふるさと」。熊本地震から1年がたった今だからこそ、必要なのは変わらぬものに対する安心感を取り戻す、心の復興なのかもしれません。


取材・文=草井理菜(リベルタ) 写真提供=木山神宮

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